資料室

友情のケーキ「ヘルマン」

True Friendship

ドリーン・ユースティス

by Doreen Eustice

 真の友情は、人生の大通りにおいても小道においても見つけることができる、素晴らしい宝物です。真の友情は、価値あるものとして大切に育めば、私たちの魂に豊かさをもたらしてくれる天然の金塊のようなものです。残念なことに、適切なやり方で真の友情を育てて、それが成長し花開くために必要な時間を与えることが完璧にできる人はほとんどいません。どんな世代の人でも、家庭の用事や仕事の事情など、さまざまな責任やプレッシャーを担わなくてはなりません。そのために、友情のことは二の次にして顧みず、草花がしおれるように友情が失われてしまうのはよくあることです。

 また、多くの素晴らしい友情が薄れていく理由のひとつは、「生涯の伴侶」の出現でしょう。その人はもしかすると「ソウルメイト」かもしれませんが、友情から注意をそらされる確固たる理由になります。そのような人が出現すると、多くの人はその魅力に屈服し、一にも二にも、その人と時を過ごしたいと思うようになります。そして、信頼に値する仲間や、電話でおしゃべりをしたり、ランチでコーヒーを3杯もおかわりしながら話し込んだ友人は、「人生でいちばん大切な人」に取って代わられてしまうのです。「睦まじさの中にも空間を保ち、ふたりの間に、天の風がそよぐことのできるようにしなさい」。これは、レバノン出身の詩人、ハリール・ジブラーンの、結婚についての優れた忠告です。残念なことに、のぼせ始めたばかりの人々が、このアドバイスに耳を傾けることは、ほとんどありません。

 少し前のことですが、退職後は会っていなかった古い友人が、覆いをかけたボウルを持って訪ねて来て、「友情のケーキ」を私にプレゼントすると言うのです。それは「ヘルマン」という名前で知られている、ドイツの友情のケーキで、かつて「不幸の手紙」や「幸福の手紙」と呼ばれたチェーンメールのように、ずっと地球を廻っているのだそうです。いつからかと言えば、おそらく宇宙が始まって間もなくからだそうです。ボウルの中には、ひとかたまりの生地と手書きの説明書きが入っていました。その説明書きには、ヘルマンの将来の幸せのために、これから10日の間に行わなくてはならないことが書かれていました。

 私たちは、警告で始まっている説明書きを声に出して読みながら、クスクスと笑いました。「こんにちは。僕の名前はヘルマン。僕はケーキ用の酵母が入った生地なんだ。だから、ふたをしないで10日間、調理台の上に置いておかなくてはならないんだ。もしも冷蔵庫に入れられたら、僕は死んでしまうよ。ぶくぶく言わなくなったら、僕は死んじゃったんだよ」。説明書きに書かれていたルールによると、ヘルマンは、2リットルの大きさのボウルに入れて、ふきんをかけておかなくてはなりません。2日目と3日目には、よくかき混ぜてあげることが必要です。そして、4日目には、一心不乱にかき混ぜる前に、おなかを空かせたヘルマンに、決められた量の小麦粉、砂糖、牛乳を与えてあげなくてはなりません。そして、ボウルに戻して、ふきんの毛布をかけて、寝かせてあげるのです。

 5日、6日、7日、そして8日目までは、生地を呼吸させて、粘りを出すために、より一層、力強く混ぜてあげなくてはなりません。9日目には、ヘルマンは再びおなかを空かせてしまうので、彼の食欲を満たすために、小麦粉と砂糖、牛乳をさらに与えてあげます。そして、この時点で、このベトベトとした生地を4等分し、そのうちの3つを、添えられていた説明書きのコピーとともに3人の友人にプレゼントします。そして、あなたの手元に残った分に、卵やスパイスやオイル、刻んだりんごやナッツやレーズンなど、さまざまなケーキの材料を加えます。そして、ヘルマンを焼いて、古い人生から解き放ち、新鮮なクリームで飾り、新しい人生へと送り出してあげるのです。

 最初の2日間は楽しんでいたのですが、3日目には彼のことをすっかり忘れてしまいました。そして4日目の夜の11時に、材料を付け加えることを思い出し、まさに瀬戸際の崖っぷちで、ヘルマンが虫の息になっているのを発見しました。10日間の物語が半分過ぎたところで、私はヘルマンのことをまるで好きになれないと判断しました。それは、まるで暴君のような電子ペットの面倒を見ているようでした。1990年代のイギリスの学校の教室で、たびたび禁止になった「たまごっち」のようなものです。そのころ、ゲームソフトのペットにご飯を食べさせたり、運動させたりしている生徒に授業の邪魔をされて、先生たちはいらだつ思いをしていたものでした。つまり、ヘルマンの面倒を見たり、彼の要求にこびへつらうことや、あまり広くないキッチンで、彼が調理台の上を占領していることが、私は好きになれなかったのです。

 もしかしたら私は、彼を外に吊るして、鳥のえさにしてしまいたかったのです。ヘルマンを4つにちぎって友達に分けてあげたいと、私がほんとうに思っていたと、あなたは思われるでしょうか。カスタードソース付きのホルモン焼きよりもやや魅力が劣る料理となる日のために、どろどろでごた混ぜでびちゃびちゃとしたヘルマンの体に、10ポンドもの値段がする材料を、後で付け加えることを私が望んでいたと、あなたは思いますか。どうぞお答えになる前に、私が最後にケーキを焼いたのは、髪をお下げにして学生服を着ていたころで、今は年金を受けている年だということを知っていてください。

 断固として非情な決心をするやいなや、私はヘルマンを無慈悲にも、掃除機の中身と一緒にごみ箱に投げ捨てました。ヘルマンはゴミにかぶりつき、ぶくぶく言うのも止まり、息絶えました。しかしヘルマンは、数え切れないほど多くの、満たされない友情の犠牲者のキッチンで、今も生き続けています。そして、インターネットで検索すると、オンラインの世界でも生き続けています。彼と知り合いになりたかったら、調べてみてください。でも、あなたがそのレシピを手に入れても、彼の振る舞いの責任は取りませんよ。

 友人たち、そして、この記事をお読みいただいているみなさんに、この経験から言わせていただきたいのです。もし誰かのことが好きで、その人を大切に思っているならば、その人があなたの人生に与えてくれているものが何なのか、それが本当に分かるものをプレゼントしてあげてください。大切な人と、時を分かち合ったり、会話をしたり、話を聴いたりしてください。あるいは、負担や罪悪感を伴わないプレゼントを贈ってください。電話をしたり、手紙を書いたり、カードを送ったりしてください。ランチに誘ってください。1本のワインを一緒に楽しく飲もうと誘い出してください。そして、人生で大切なことについて、あるいは、特にそうでもないことについて、熱心に語り合ってください。一緒にピクニックに出かけたり、瞑想の旅に出かけたりしてください。何でもいいですから、あなたのキッチンにあるもので、20分で料理ができて、すぐに片付けられるものを一緒に食べてください。でも、私たちが「友情」と呼んでいるこの素晴らしい財産を育むために、あなたがどのような決心をするとしても、友情のケーキ「ヘルマン」だけは贈らないでくださいね。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.136)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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