資料室

オクシタニア十字の象徴的意味

The Mystical Occitanian Cross

リック・コバン

By Rick Cobban

 ある美しい夏の日、私は南フランスのトゥールーズ市の市庁舎(Capitole de Toulouse)前の広場を歩いていました。そして、このとき初めて見たのですが、広々としたこの公共の広場の中央には青銅製の神秘的な十字があります。この十字は、トゥールーズと南フランスの由緒あるオクシタニア地方を象徴している伝統的なシンボルです。私は十字の周囲の線に沿って、ゆっくりと歩いてみました。突然、黄道十二宮(訳注)の星座の印が目に飛び込んできました。それは、広場に描かれた十字の先端が3つに分かれていて、そのうちの一つに描かれた星座を表す印でした。
訳注:黄道十二宮(zodiac sign):古代より西洋占星術で使われている12の星座。天球上の太陽の軌道である黄道の近くの領域を春分点を起点として12等分し、そのそれぞれに含まれている星座として定められている。

 十字が一番よく見える建物に上って、しばらくの間、その全体を観察していました。広場にあふれ出てきた旅行者で、すぐにはっきりとは見えなくなってしまいましたが、この大きな十字の4つの先端には空気、土、水、火の四大元素が一年の周期の順番に配置されていました。そして、その先端のそれぞれが3つに分かれており、そこに、12の星座の印が描かれています。これをきっかけに、私は、古い歴史を持つこの美しい地域の象徴であるオクシタニア十字に魅せられてしまいました。そして、南フランスのこの地域を愛し、故郷のように感じています。

オクシタニアの独自性の象徴

A Symbol of Identity

 オクシタニア十字は、トゥールーズ十字とも呼ばれます。昔も今もオクシタニア(訳注)として知られる南フランスのラングドック地方では、この十字をいたるところで見ることができます。オクシタニア十字は、この地域の公式な象徴であり、紋章として用いられています。また、オクシタニアの独自性を表す普遍的なシンボルとして、観光局や商用のビジネスでも用いられています。このような状況は、長い歳月にわたる変化の結果として実現されたものです。王政の時代も共和制の時代も、オクシタニアの独自性は、フランスの国家権力によって抑圧されていました。国家の統一を強化する意図を持った勢力は、地域分離主義の実際の活動も、またそれを想起させるものも押さえつけてきたのです。
訳注:オクシタニア(Occitania):オック語が話される地域。南フランスを中心として、イタリア、モナコ、スペインの一部を含む。

 紋章学の表記によれば、オクシタニア十字は、「赤の十字、尖り、リンゴ付き、中抜き、黄金」(gules a cross clechy pommety and voided or)と記されています。一般的な言い方で説明すると、「尖った先端をした中抜きの黄色の十字が、赤い背景に描かれ、12の先端のそれぞれには毛糸玉(もしくは小さなリンゴ)が付いている」となります。

 中世の時代にオクシタニア十字は、ヴナスク(Venasque)、トリポリ(Tripoli)も治めていたトゥールーズ伯サン・ジル(Saint Gilles)家の紋章と旗に用いられていました。また、12世紀から13世紀には、コインにも用いられていました。オクシタニア十字は、この地域の独自性を示す封建制時代のシンボルであり、パラージ(訳注)という観念を表し、思想・宗教の自由を取り戻そうとする運動のシンボルでもありました。興味深いことに、エルサレムの聖ヨハネ騎士団に属したトゥールーズ伯レーモン6世は、生涯にわたり、神秘学の伝承、パラージの観念、国際協調を重視する社会、カタリ派(訳注)の擁護者でした。現存する最も古いオクシタニア十字は、西暦1211年のもので、トゥールーズのサンテティエンヌ大聖堂(Saint-Etienne Cathedral)の身廊(訳注)にあるアーチ型の天井のかなめ石に装飾されたものです。
訳注:パラージ(paratge)、古代オクシタニア語で、道義心・親切・気高さ・騎士道精神・上品さなどを一言で表す観念。後述。
カタリ派(Cathars):12~13世紀にヨーロッパで流行したキリスト教の一派。ギリシャ語の「清潔」(katharos)に由来。禁欲主義や生まれ変わりを説いた。ローマ教会より異端とされ、残酷な弾圧が加えられた。15世紀に消滅。
身廊(nave):教会で祭壇の近くに位置する参列者の椅子が並んでいる場所。

オクシタニア十字の起源

Origins of the Occitanian Cross

 オクシタニア十字の起源はとても古いため、不明瞭な点も多く、諸説が存在します。この十字のデザインに関する一般的な説明のひとつは、中世の遺物に由来するシンボルであるという説です。この時代には、先の尖ったデザインの十字(cross clechy)を盾に取り付けるために12個のリベットを使用していました。このことに由来する12個の点を先端に配置した十字の形から、オクシタニア十字が生じたと考えます。これとは別の見方があり、それは、トゥールーズの周辺の地域で見られる証拠によって裏付けられています。オクシタニア十字は、バラ十字の一種であるという説です。ラルザック(Larzec)、オート・コルビエール(Hautes Corbieres)、ベズ(Bezu)、およびクレルモン・ル・フォール(Clermont-le-Fort)では、9~19世紀までの時代に、オクシタニア十字とバラ十字の中間的なデザインの十字が見つかっています。

 1151年にシトー修道会(Cistercians)が建てたアヴェロン県のシルヴァネス修道院(Abbey of Sylvanes)や、テンプル騎士団によって建造されたオート・ガロンヌ県のモンソネス(Montsaunes)の教会では、十字の意匠の意味と解釈に、通常のキリスト教的な考え方と、キリスト教神秘学の考え方が混じり合っている証拠を見ることができます。シルヴァネス修道院の北側の翼廊(transept)には、バラ窓(訳注)があり、まさに12使徒を表している12の球が配置され、中心には教会を象徴するマリアを表す6枚の花弁が配置されています。
訳注:バラ窓(rose window):ロマネスク様式やゴシック様式の聖堂建築に取りつけられる巨大な円形の採光窓で、中心より放射状に広がる格子がばらの花のデザインをしていて、その間には通常ステンドグラスが張られている。

イラクのモースル(Mosul)で出土した西暦600 年のキリスト教ネストリウス派のバラ十字。オクシタニア十字の先駈け。

 モンソネス(Montsaunes)にあるロマネスク様式の礼拝堂には、中心円に接して、それを取り囲んでいる12の円の形に作られた、半球状に張り出した採光用のバラ窓があります。オクシタニア十字のデザインでは、規則正しく12の小球が配置され、それが一定の半径の中に収まっているため、全体をある円の中に配置することができます。そしてこのデザインは、モンソネスのバラ窓に完璧に採用されています。ですから、13個の円でできたこのバラにぴたりと合うように、オクシタニア十字をデザインすることさえできます。モンソネスの教会の図案では、12使徒に囲まれてキリストが配置されています。中央のバラの有無に関係なく、これらがオクシタニア十字の一種であることは確実です。

 オクシタニア十字には、キリスト教よりも古い起源があり、12の光線を放つ太陽を表す車輪のデザインから生じた可能性があります。そのような太陽車輪(solar wheel)のデザインのひとつを、トゥールーズ近郊のサン・ミッシェル・ド・ラネスで見ることができます。伝承によると、第一回十字軍の遠征中にトゥールーズ伯レーモン4世がオクシタニア十字を採用したとされています。しかし、この十字はそれ以前から用いられていたことが知られています。オクシタニア十字は、多くの文化に由来する多くの種類の十字から発展し変化して、現在の形状になりました。ビザンチン十字、西ゴート十字、エジプトのコプト十字、中東や中国由来の十字、ネストリウス十字の要素を、この十字は兼ね備えています。その後、ヴナスク(Venasque)の伯爵家と深い関連を持つ現在の形状のオクシタニア十字として知られるようになりました。このことは、西暦1080年のマルセイユに記録として残されています。ヴナスク伯爵の領地は、婚姻によって、すぐにトゥールーズ伯の所有領になりました。その後、オクシタニア十字は、トゥールーズ伯プロヴァンス侯レーモン・ド・サンジル(レーモン4世)の旗に用いられました。

 オクシタニアの研究家でありバラ十字国際大学のメンバーである、ベルトラン・ド・ラ・ファルジュ(Bertran de la Farge)は、オクシタニア十字の赤と黄色の意味について説明しています。ラ・ファルジュによれば、この十字の色は、血と黄金に由来します。「血は人間の魂(soul:ソウル)を表し、黄金が表すのは、溶けた金、すなわち太陽、もしくは偉大なる精神にあたる〈創造主/神〉です」。彼はさらに、血と黄金の色が、オクシタニアの歴史にとって重要な色であることを説明しています。オクシタニア人はカタロニアからやって来ました。ベルトラン・ド・ラ・ファルジュは、以下のような歴史的な逸話について語っています。
「中世に、アラブ人がカタロニアに侵攻しました。そのとき、カタロニア軍の司令官はバルセロナ伯で、その紋章は黄金色で塗られていました。カタロニア軍は大敗し、バルセロナ伯は瀕死の重傷を負ったのです。バルセロナ伯は、他の騎士に囲まれて、血にまみれて横たわっていました。そして、イスラム教徒のアラブ軍の司令官は、金色の紋章によりバルセロナ伯を見分け、殺そうとしたのです。バルセロナ伯は血まみれでした。しかし彼は機転を利かせ、右手の指を自分の血に浸すと、金色の紋章に4本の赤い帯を描きました。そのため、イスラム軍の司令官は、バルセロナ伯を見つけることができず、彼は生き延びることができました。それ以後、バルセロナ伯の紋章は『赤い4本の帯のある金』になったのです。バルセロナ伯は、この新しい紋章で戦いに赴き、彼の国を解放へと導きました。」

 カタロニアの人々とオクシタニアの人々は親しい関係にあったため、オクシタニア人は、オクシタニアの旗に金色と血の色を取り入れ、自由と平等と兄弟愛の色であると見なすようになりました。このような理由から、オクシタニア十字は、血の色の背景に金色で描かれています。

神秘学的で秘教的な解釈

Mystical and Esoteric Interpretations

 オクシタニア十字の解釈は多種多様であり、論争の的となっています。それは、豊かで創造性に富むこのシンボルにふさわしいと言えます。神秘学的な解釈によれば、オクシタニア十字は、バラ十字の一種です。十字は肉体の象徴であり、金色の十字の中抜きの部分は、血のような赤色をしていて、肉体に宿ったソウルを象徴しています。赤は生命と精神性を表す色であるため、この象徴は強力な意味を持ちます。一方で金色は、永久不変である性質と、損なわれることのない完成を表す色です。

 オクシタニア十字の占星術的な解釈によれば、十字の4つの腕の各先端に3つずつある球は、黄道十二宮の星座、すなわち十二宮を表すとされています。秘教的な意味では、オクシタニア十字は、黄道十二宮を太陽が一周する一年の周期と、地球の歳差運動(訳注)による時代の大周期の両方を象徴しています。黄道十二宮は、魂(ソウル人格)の進歩を表すとも言えます。黄道十二宮のそれぞれは、人間が経験する典型的な12のことがらを象徴していて、この経験を通して魂は進歩します。大周期の中の各時代は、集合的な魂、哲学、文化という面で、人類が進化していく個々の段階を表すと考えられます。もしかしたらオクシタニア十字は、魂の進歩の12の段階と、十字の中心にある13番目の超越的な段階を表しているのかもしれません。
訳注:歳差運動(precession):地球の自転軸は、天球(恒星系)に対して、ごくゆっくりとすりこぎのような運動をしており、この運動を歳差運動という。この運動が原因となり、約26,000年の周期(プラトン年と呼ばれる)で春分点は黄道を一周する。占星術では、春分点が黄道十二宮(12星座)のどこにあるかで、約2160年続く各時代(プラトン月)の特徴が決まるとされる。

 トゥールーズの市庁舎の前の広々とした公共の広場に埋め込まれた、青銅で造られた印象的なオクシタニア十字に、このようなオクシタニア十字の解釈を見ることができます。この占星術的な解釈は、芸術家の故レイモンド・モレッティが提唱したものです。この十字には、金属製の飾り鋲が散りばめられ、鋲のひとつひとつには、何世紀もかけて進歩し変化してきたオクシタニア十字のさまざまな例が装飾として描かれています。過去の文化のそれぞれが、オクシタニア十字の形を作り上げ、十字の中に秘密の意味を隠しました。しかし、今となっては、それらの意味は推測することしかできません。数字の12、4、3、7が持つ象徴的な意味については、多くの解釈が明らかになっています。オクシタニア十字は、福音書の4人の作者と、羅針盤の東西南北を暗示するキリスト教神秘学の象徴です。そして、三位一体と12人の使徒は、十字の4本の腕の、それぞれ3つに分かれた先端と、そこに配置された12個の球で象徴されています。

 神秘学の立場から見ると、オクシタニア十字の中心にはキリストがいて、12人の使徒が彼を囲んでいます。これは、入門儀式と呼ぶこともできる12種類の異なる人生経験と学びを表している可能性があります。この学びにより、キリストで表されている超越と完全性の達成へと人は導かれていきます。

 聖書には、オクシタニア十字と関連する象徴が、少なからず登場します。旧約聖書との関連では、イスラエルの12部族が、十字の上にある12個の球で象徴されています。また、ソロモンの神殿の青銅製の大きな容器には、この容器を支える彫刻が施された12の脚が付いています。そして、脚は3つずつ、東西南北を向いていますが、この象徴もオクシタニア十字に良く似ています。新約聖書では、「マタイによる福音書」(19:28)で、イスラエルの12部族の使命と12人の使徒の使命が対応していることが述べられ、「神を知りたい」と切望する人類の進化がほのめかされています。「ヨハネの黙示録」では、12という数字が神秘学的に持つ意味が明かされています。この数字の象徴としての意味は、オクシタニア十字と密接に関連しています。たとえば、心の最も深い部分における達成を象徴する天上のエルサレムとの関連が次のように書かれています。
「エルサレムの十二の門は十二の真珠であり、それぞれの門はそれぞれ一つの真珠で造られていた。そして、都の通りは純金であり、まるで透き通ったガラスのようであった。」(黙示録21:21)
「そして、エルサレムには、大きく高い城壁があり、十二の門があり、門には十二人の天使がいて、イスラエルの子らの十二部族の名前が記されていた。」(黙示録21:12)

 また、以下の節には、女性的なエネルギーが持つ、保護し育む性質と超越的な性質がほのめかされています。これらは、オクシタニア地方で特に広く認識され尊重された性質です。
「そして、大いなるしるしが天に現れた。ある女性が太陽をまとい、その足下に月を踏み、頭には十二の星が付いた王冠を被っていた。」(黙示録12:1)

 以下の節からは、パラージ(paratge)と呼ばれるオクシタニア特有の観念に含まれる美徳が思い起こされます。
「大通りの中央を流れる川の両側には、生命の木があり、その木には十二の果実が毎月実り、その木の葉は国の民を癒すものであった。」(黙示録22:2)

 オクシタニア十字はまた、パラージという観念を図形として表しています。ベルトラン・ド・ラ・ファルジュは、オクシタニア十字の先端にある12の頂点は、パラージに含まれる美徳を心得ておくことを示していると同時に、この美徳を無視した場合に生じる好ましくない結果を警告するものであると説明しています。パラージに含まれる美徳には、道義心、礼儀正しさ、寛容さ、正しい生活、平静さ、親切、優秀さ、気品、思いやり、愛、自己犠牲、魂の高潔さがあります。また、これらの美徳を欠いた場合に生じる好ましくない結果には、不安、恐怖、欲深さ、傲慢、偽善、怠け、うぬぼれ、幻想、貪欲、優柔不断、後悔、そして12番目の要素として希望(!)があります。

 秘密のバラ十字でもあるオクシタニア十字は、強力な神秘学の象徴であり、金色の十字は完成の域に達した肉体を表し、十字の中にある赤い部分は、肉体の中で進化を続ける非物質的な魂を表しています。オクシタニア十字は、ラングドック地方からの贈り物です。この美しい永遠の象徴は、進歩し続ける人間の心の深奥の最も望ましい性質を表しています。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.137)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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