資料室

バラ十字古代エジプト博物館のコレクションから 〜石灰岩のコプト十字〜

Treasures from Rosicrucian Egyptian Museum 
〜 Limestone Cross - RC 1644 〜

コプト教徒の十字、石灰岩製
西暦300 ~ 700 年頃

 エジプトと古代ギリシャの文化が融合し、発展して生じたコプト文化は、ローマ時代(紀元前30年~西暦642年)に全盛期を迎えました。この時代、エジプトはローマ帝国の行政区の一つとなり、ローマ帝国、後には東ローマ帝国(首都コンスタンチノープル)に支配されていました。「コプト」(Copt)という語はエジプトのキリスト教徒を表わします。エジプトが西暦642年にアラビア人に征服された後も、この地では中世の頃まで、エジプト語の一種であるコプト語が用いられ、コプト・キリスト教が、主な宗教であり続けました。

 この時代の重要な特徴は、とても多様性に富んでいたということです。同じ国でありながら、さまざまな宗教や他の修行を実践している人々が、ともに生活し、働き、それぞれの神や聖人を崇拝していました。その中には、コプト・キリスト教徒、エジプトの伝統的な宗教の信者、グレコ=ローマン(訳注)の宗教の信者、新プラトン学派の哲学者、ヘルメス思想の支持者(ヘルメス・トリスメギストスのものとされる著作を尊重する人々)、一般に「グノーシス派」と呼ばれている多くのグループ、さまざまな神秘学派の人々などが含まれていました。そしてアレキサンドリアが、地中海における文化と哲学と科学の中心都市でした。

訳注:グレコ=ローマン(Greco-Roman):古代ギリシャがローマに制圧され,その属領となっていた時代(紀元前146年から400年間ほど)の美術の様式、宗教などを指す。

 この大きな十字は、高さ43.6cm、幅31.3 cm、厚さ6.8cmで、石灰岩で作られています。1956年に収蔵品に加えられて以降、バラ十字古代エジプト博物館の中でも人気の展示品です。その美しさと目を惹くデザインに加えて、この十字は、遺物の鑑定には探偵が行うような作業が時として必要であるという一例になっています。この十字は、4世紀から8世紀の間に作られたと現在は考えられています。十字という幾何学図形は、象徴として古代エジプトで用いられていましたが、4世紀頃までは、キリスト教徒の間ではあまり人気がありませんでした。そのため、石灰岩のこの十字は4世紀以降のものであると推測されます。

 また、ロバート・デ・ルスタファエル(Robert de Rustafjaell)の著作「エジプトの光」(The Light of Egypt、1909年)に掲載されている写真を調べた結果、この十字は8世紀よりも以前のものと考えられています。エジプトで行われた彼の調査旅行と発掘についての回想と考古学的分析がこの著作で扱われています。そして、ルスタファエルがテーベの近郊で発掘した、コプト教徒の墓石や他の遺物の写真が掲載されています。そのうちの2つに注意を引く特徴がありました。バラ十字古代エジプト博物館のこの十字と同じらせんの図案が描かれていたのです。そのため、この十字と2つの墓石は、作られた時期も宗教も同じだと推測することができます。

 このコプト十字のデザインには、いくつかの特徴があります。まず、らせんは図案化されたぶどうの木を表わしています。ぶどうの木はキリスト教徒にとって、神との神秘的な合一を意味しており、また、聖餐(訳注)のぶどう酒も象徴しています。聖書には「私はぶどうの木であり、あなたがたは枝である」という一節があります。十字の下側の枝にあるらせんの中に2個の聖餐のパンが描かれていることによっても、このデザインが神との神秘的な合一を意味していることが分かります。古代エジプトのキリスト教の信者にとって、ぶどうの木は、豊かさと誕生の象徴でした。一方、グレコ=ローマンの宗教では、ぶどうの木はディオニュソスを主神とするオルフェウス派の神秘学を表わしていました。

訳注:聖餐(Eucharistia):イエスが処刑される直前に弟子たちとともにパンとぶどう酒を食べたとされる最後の晩の食事。新約聖書に伝えられている。

 十字の4つの腕の先端には、三角形の装飾がついており、その中に描かれた折れ線は、十字の中央にある花もしくは太陽の図案から放射される光を表わしているかのようです。また、中央の図案の四方にある、らせんの中の4つの小さい円もまた、中央から外に広がる放射を表わしているように思われます。一貫した意味を伝えている別のデザイン要素として、四方位(北南東西)とその中間の方位(北東、北西、南東、南西)が挙げられます。十字の左右の腕と上向きの腕の先端には星が描かれていますが、その模様は四方位とその中間の方位を指しています。そして、十字の中央には、背面から出ている先のとがった4つの突起があり、デザインが示す八方位という意味を全体としてさらに際立たせています。四方位を重要だと考えることは、あらゆる古代文化に共通していますが、さらに、中間の4つの方位には、多くの神秘学派の教義で重要な意味が付け加えられました。そのような神秘学派には、古代ケルトやヘルメス思想の学派も含まれています。

 以上のように、この十字に表わされているのは、芸術的な美しさだけでなく、その作り手から、ここエジプト博物館を訪れている私たちまで、時代を超えて、さまざまな文化が互いに影響し合っているということです。古代の世紀が遠い過去となった今でも、この十字の中心からは活気に溢れるエネルギーが放射されています。

スティーブン・アームストロング博士
バラ十字古代エジプト博物館学芸員

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.143)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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