資料室

ウォーキングで心配ごとを追い払う

Walking Away Your Worries

ダイアン=ジョー・ムーア

by Dianne-Jo Moore

 腰部の椎間板ヘルニアの手術が終わって6時間が経った後のことでしたが、2人の看護師が私をベッドから助け起こしてくれました。そして、ぜひ何歩か歩いてみるようにと勧めてくれたのです。その翌日、私は手術後のリハビリの一環として病院の廊下を歩き、入院していた残りの10日間もこのウォーキングを続けました。担当の神経外科医は、私が元気になるための特効薬は歩くことだと熱心に説明してくれました。ウォーキングによって、血栓を予防したり筋肉を強化することができ、一般に、回復の過程全体を速めることができます。

 その後の数ヵ月の間もウォーキングを続けていたのですが、奇妙なことが起こりました。筋力が回復し、うずきや痛みが治まっただけでなく、気分がとても良くなったのです。静かな住宅街を散歩していると、経済的な心配ごとや体の不調のことを忘れ、倦怠や憂鬱もなくなっていました。悩まされていた問題の解決策が、ひょいと頭に浮かぶことも多く、散策から戻ったときには、心が機敏で活気に満ちていると同時にリラックスした状態になりました。自分の心配ごとから、文字通り、歩いて遠ざかっていくように私には思えたのです

 今日の世界では、抱えている問題に対処するときにはストレスがつきものです。失業、経済的な重圧、個人と個人のいさかい、性的な機能不全、騒音問題、人間関係の悩み、世界中で起きているさまざまな問題のほかにも、心配を引き起こす状況がいくつもあります。そして、慢性的な心配から生理的な反応が起こります。家庭や職場での争いという重荷を抱えている人は、知らず知らずのうちに筋肉が緊張して、心拍数が増え、血圧が上がってしまいます。ストレスの多い状況が解決されずに長期間続くと、ついには、疲労、苛立ち、ふさぎ込みなどの症状が出るようになります。

 心配を取り除き緊張を和らげるためにウォーキングが大いに役立つと、5歳から99歳までのあらゆる人が認めています。哲学者で社会評論家のバートランド・ラッセルは、「不幸なビジネスマンは、考えうるどのような形に人生観を見直すよりも、1日10キロほど歩くようにすれば、より幸せになることができます」と述べました。

 哲学者ラッセルのこの意見に賛同するように、『医師のためのウォーキングブック』の著者フレッド・A・スタットマン博士(Dr. Fred A. Stutman)は、「ストレスに対処する簡単で健康的な方法のひとつは、家や職場から外出して、ウォーキングによって緊張を取り除くことです」と述べています。

 内分泌学者でストレスに関する世界的権威の故ハンス・セリエ博士(Dr. Hans Selye)による実験から、ウォーキングによってどれほど緊張状態が和らげられるかが明らかにされました。モントリオール大学の実験室で行われた調査では、耳をつんざくような騒音、強い光の照射、電気ショックなどのストレスを1ヵ月に渡って与えられたネズミは、すべて死亡しました。しかし、同じストレスを与えられる前に回し車で運動したネズミは、実験の終わりまで生存し良好な健康状態を保っていました。

ウォーキングでストレスを追い払う

Walk Away your Stress

 また、南カリフォルニア大学の運動生理学者のハーバート・デ・ブリース博士(Dr. Herbert de Vries)は、片頭痛に悩む50歳以上の男性のグループを対象に調査を行ないました。定期的な運動を1週間行うと、彼らの頭痛は消失しました。さらに別の実験によって、神経と筋肉の緊張の緩和のためには、15分間のウォーキングが精神安定剤よりも高い効果を示すことをデブリーズ博士は見いだしました。

 どのような仕組みで、ウォーキングによって心配ごとが減るのでしょうか。ジェラルド・ドナルドソン(Gerald Donaldson)は、著書『ウォーキングブック』に次のように記しています。「歩行に関わる脳の領域は運動野であり、連想プロセス、思考、感情を司る層から、わずか数ミリメートル離れた部分に位置しています。この2つが近接しているため、ウォーキングによって運動野が活発に活動すると、それに並行して思考と感情に影響が与えられることになります」。

 スタットマン博士によると、血中での酸素供給の増加と二酸化炭素の減少が、運動をしているときに起こる主な2つの生理学的な変化です。「ウォーキングによって酸素の供給が増えると、思考力と記憶力が改善され、集中することのできる時間が長くなり、思考の明晰さが向上します」。

 スタットマン博士は続けて、こう述べています。「最近の研究は、エンドルフィンとノルエピネフリンという2種類のグループの脳内物質の濃度が、運動によって上昇すると言って差し支えないことを示しています。これらの物質には気分を高揚させる効果があると思われ、幸福感を与える傾向があります」。

 ニューヨークの履物協会(Footwear Council)の広報担当者は、次のように述べています。「考えごとをするためにウォーキングをすることができますが、さらに良いことに、考えごとをしないためにウォーキングをすることもできます。ウォーキングをすることで元気になり、血圧が下がり、気分が良くなり、緊張した筋肉がほぐれて、スタイルが良くなります。さらに、ウォーキングが与えてくれる純粋な喜びについては言うまでもありません」。そして、ウォーキングのための脚力は、別人のように健康な生活へと向かう、文字通りの第一歩となります。

 しかし、ウォーキングから最大のメリットを得るためには、いくつかの簡単なルールに従うことが大切です。無理をしすぎたり、分別のあるウォーキングの計画に従わなかったりすれば、心配ごとを怪我と置き換えることになってしまうかもしれません。以下に、チャールズ・T・カンツレメン(Charles T. Kuntzleman)と『消費者ガイド』誌の編集者による『ウォーキング完全読本』から、いくつかのヒントを紹介します。ウォーキングプログラムを効果的に行うガイドとなってくれることでしょう。

確信を持ってプログラムを始めましょう

Start Off Your Program Positively

 健康に問題のある場合、すなわち心臓病があったり、腎臓や肺に問題があったりする場合、もしくは背中や腰の痛みや、体に何らかの異常がある場合には、いかなる運動プログラムを実行する場合でも、その前に医師に相談してください。ウォーキングプログラムを始める前に、運動負荷試験や心電図検査が必要な場合もあります。

姿勢と呼吸

Posture and Breathing

 ウォーキングを行うときには、顔を上げて背筋をまっすぐに伸ばし、腕の力を抜いて、足の動きと逆になるように腕を振ります。一歩踏み出すごとに、かかとから先に地面に付け、次にかかとから爪先に体重を移動させます。この方法で体重を配分することは、脚部や足先や他の部分の形態の異常を避けるために役立ちます。呼吸は楽にして、自然な呼吸ができるようにします。口は開いていても閉じていても構いません。心地よく感じるほうを選んでください。そして、快適に感じる歩幅で歩きましょう。

どのくらいの速さで歩くのがよいか

How Fast Should You Go?

 「会話テスト」と呼ばれる方法で、歩く速さを見積もることができます。

 誰かと一緒に歩いている場合は、歩く速さを、快適に会話ができるペースにするのがよいでしょう。一人で歩く場合は、頭の中で自分と会話してください。話したいと感じないときは、ほとんどの場合、あなたの年齢と体力にふさわしいスピードよりも速すぎるウォーキングをしていると、カンツレメン氏は述べています。

心拍数を知る

Finding Your Heart Rate

 ウォーキングプログラムが安全であるかをチェックする最も信頼できる方法は、自分の最大心拍数と脈拍数を知ることです。標準的な最大心拍数は、220からあなたの年齢を差し引いた数値になります。たとえば30歳の場合は、最大心拍数は190です。生理学者によると、最大心拍数の70~85パーセントで運動しているならば、安全な運動プログラムであることが確認できます。30歳の例を用いると、最大心拍数である190の70~85パーセントは、133~162になります。ですから、ウォーキングの際には脈拍数をこの範囲内に保つべきです。

 脈拍数を測る方法は、簡単に習得できます。人差し指、中指、または薬指を、手首の親指の付け根に置きます。10秒間、脈拍を数えて、その脈拍数を6倍にします。運動をする際には、脈拍数が最大心拍数の70~85パーセントの範囲に入るように気を付けてください。最初のうちは練習が必要ですが、すぐに、苦労せずに脈拍を測れるようになります。

自分のペースを見つける

Discover Your Own Pace

 最初にウォーキングを始めるときには、ゆっくりとしたペースで始めるようにして、体が慣れてきたら日課を増やしていくようにします。増やし過ぎると、すぐに悲惨な結果に陥ることがあります。平均的な歩行速度は、平地の場合で1時間あたり約5キロメートルです。

 『消費者ガイド』では初心者向けのプログラムとして、心拍数が目標の範囲を下回るようであれば、1日20分のウォーキングを週4回、または1日15分のウォーキングを週6回行うことを提案しています。次に、プログラムを21段階で増やしていきます。それぞれの段階を最低1週間は継続し、最終的な段階では1日120分のウォーキングを週4回、または1日80分のウォーキングを週6回となります。もう一度強調しておきますが、運動の最良の指標は、あなた自身の身体感覚に合わせることです。

必要な道具は最小限

Equipment Needed is Minimal

 他のスポーツや運動プログラムと違って、ウォーキングに必要な道具はごくわずかです。快適で動きを妨げないものであれば、どんな服装でもかまいません。しかし、適切なウォーキングシューズは必須です。良い靴を選ぶためには、あなたの足の輪郭線を紙に描いて、買う予定の靴底とその線を比較します。靴を試し履きするときには、必ずウォーキングをするときに着用するのと同じ靴下を履きます。爪先と靴の先端が少なくとも10~12ミリメートル空くようにします。アーチ(土踏まずの湾曲)やミッドソール(中底のクッション)が足を適切に支えていることを確かめ、さらに、他の部分は柔軟性のある靴にします。かかとの方がわずかに高く、靴底にはクッション性があり、快適に動くために、つま先部分は十分に余裕のある靴が良いでしょう。「消費者ガイド」では、良質なランニングシューズを勧めていますが、良いウォーキングシューズを使うこともできます。ウォーキングシューズのほうが少しおしゃれな傾向がありますが、ランニングシューズと同程度の柔軟性、かかとのクッション性、土踏まずのサポート機能を備えています。

プログラムの調整

Adjusting Your Program

 ウォーキング中やウォーキング後に痛みや疲労を感じたら、具体的な症状をノートに記録してください。そして必要があれば、その症状について医師に相談してください。不快感や肉体的な苦痛は、ウォーキングプログラムに調整が必要だというしるしです。一人一人の体は異なりますので、運動プログラムも、あなた自身の必要と要求に合わせる必要があります。

 ウォーキングはまさに、あなたの悩みへの積極的な改善策です。お金もかからず、苦痛もなく、元気になり、楽しく、年齢に関係なく誰にでもできます。ウォーキングに競争は必要ありませんし、恩恵が即座に得られます。ジェラルド・ドナルドソンは、『ウォーキングブック』でこのように言っています。「ビンに入った薬やアルコールによって、リラックス感を得る人もいますが、自分自身の脚によって、純粋で混じり気のない自然な形のくつろぎを手に入れることができます」。

 ※上記の文章は、バラ十字会が会員の方々に年に4回ご提供している神秘・科学・芸術に関する雑誌「バラ十字」(No.144)の記事のひとつです。バラ十字会の公式メールマガジン「神秘学が伝える人生を変えるヒント」の購読をこちらから登録すると、この雑誌のPDFファイルを年に4回入手することができます。

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